授業の実際

心拍数の授業

フィットネス授業の実際として、ここでは「心拍数の授業」を紹介する。

 この授業のねらいは、有酸素運動の運動強度と持続時間について理解し、適度な強度の運動を実践できる力を養成することにある。少なくとも3時間の授業を必要とする。
 1時間目は、年齢から割り出した一般的な目標心拍数域(THR)を知り、実際の運動時に心拍数がそのTHRの範囲内に収まるように運動強度を調整する実習である。グラフ1は縦軸に心拍数、横軸に時間が示されており、10分ごとに心拍数を計測してプロットし、ベルのようなカーブを描く折れ線グラフが描かれることになる。1時間目のグラフ1には対象者の年齢における一般的な最大酸素摂取量の50%-70%にあたるゾーンがグレーで示されている。このグレーゾーンの範囲内で20分以上の運動が継続できるよう強度の調節をしながら運動を続けるというものである。実習する運動は、エアロビクスやウォーキング、ジョギングなどの有酸素運動でなければならない。有酸素運動の内容はいくらでも工夫ができるが、生徒達が運動強度をモニターしながら、自分で運動強度を調節できるような内容にし、「きついと感じれば、歩くだけでよい」「他人との競争ではない」ことを十二分に伝えることが重要である。場の設定としては、ウォーキング、ジョギング用の大回りコース、その中にスキップなどの各種ステップコース、ステージなどを利用したアップダウンのコースなどがあると、生徒達は自分の運動強度をモニターしながら、コースを選択することができる。

グラフ1


 2時間目は、一般的な目標設定ではなく、安静時の心拍数から割り出した各個人のTHRを計算し、50%から85%までの数値を割り出す。その上で体力や体調に合わせてTHRを設定しグラフ2にゾーンを記入する。安静時の心拍数は授業中では計測できないので、測定とTHRの計算を課題にしておくと、20分以上の運動時間が確保できる。運動経験の乏しい者は「運動はきつく苦しいもの」という思い込みを持っていることが多いので、ビギナーにとっては50%の運動強度でも意味があることを強調し、「より早く、より激しく」を暗示しないことが重要である。この時間は、各自のTHRに合わせて、前回と同じ運動に取り組む。

THR計算式
グラフ2

 3時間目は、2時間目に加え「ボルグの主観的運動強度」の概念を導入する。運動熟練者ならいちいち心拍数を計測しなくてもおおよその運動強度を自覚しており、各自で調節するスキルを会得している。しかし、多くのビギナーは「運動はきつくなければ意味がない」という思い込みを持っている上に、適度な運動強度を体感的に認知する能力も乏しい。ここでは、心拍数と主観的運動強度との関連について実習を通して学んでいく。例えば50%の運動強度は自覚的には運動が十分に継続できる程度に「楽な感じ」であり、決してきつくは感じない。主観的運動強度によって心拍数を推測できるようになるためにはある程度の繰り返しが必要なので、ほかの授業でも心拍数を計測し、主観的運動強度に触れるような場面を設定するとよい。使用するグラフは2時間目と同じグラフ2である。