ものと人の認識──見えるものと見えないもの── 教育学科心理学 矢野 喜夫先生

 

 

1.ものの量の認識 (関連科目:理科・算数;小学校中高学年)

 

 

 

(1)ものの数や量

 

 みなさんは、ものが多い少ないという、ものの数や量、長さや重さ、面積や体積などは、だれが見ても明らかな、

はっきりしたものだと思っているかもしれません。1個2個と数えられるものは、数えて数を言えばいいし、長さは

物差しで計ればいいし、重さは秤で量ればいいですね。面積や体積は算数の時間に、計算して出す方法を習って、

計算するものですね。

 でも、そのようなものの数や量、長さや重さ、面積や体積などは、数えるとか計るとか計算してわかるようになる前に、

それがどんな量であるか、わかっていなければならないのです。それはもともと、数えたり計ったり計算しなくても、

目で見て直観でわかるものなのです。私たちはふだん、ものの数や量を目で直観的に判断して、ことばで、

「たくさんある」とか「多い」とか「少ない」とか、「長い」「短い」とか、「大きい」「小さい」とか、「広い」「狭い」と

言っているのです。

 そのような、ものの数や量や長さや大きさ・広さは、目で見てわかることです。でも、目で見ただけで、多そうとか

少なそうとか、大きそうとか小さそうというのは、そのままそのものの数や量や大きさだと思いますか。違いますね。

目で見た見かけの多さや大きさが、そのままものの数や大きさではないですね。

 見かけは多そうでも、実は少なかったり、見かけは少なそうでも、実は多かったりすることがありますね。

それは、ものの並べられかたや、形や入れ物の違いによって、多そうに見えたり、少なそうに見えたりすることが

あります。多そうに見えても本当は少なかったり、少なそうに見えても本当は多かったりします。

 

 みなさんは缶詰や瓶詰めを開けて中のものを全部出したことがありますか。缶詰や瓶詰めは、小さそうに見えても、

缶を開けてお皿に移して広げると、たくさん入っていたことがわかって、驚くことがあります。

 

 

 

 

(2) いろいろな量の比較

 

 

 

飲み物をガラスコップに入れて、何人かで分けるとき、

コップの大きさが違うと、多そうに見えたり、少なそうに見える

ことがありますね。みなさんはそれを知っているから、大きさが

違うコップに、飲み物を入れるときは、大きいコップには飲み物の

高さを少し低く入れ、小さいコップには少し高く入れて、調節しますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 粘土やお餅やあんこや肉団子などのように、丸くしたり細長くしたり

して形を変えられるものは、形が違うと量が多く見えたり少なく見えたり

するので、同じ形にしないと、どちらがたくさんあるのか、同じ量なのか

わかりませんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ものの数も、数えるか、1対1の組にして並べないと、

同じ数だけあるかどうかわかりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 もの長さを比べるときは、端をそろえて、ピンと延ばして

 同じ形にしなければ、同じ長さかどうかわかりませんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重さや体積や面積のような、ものの量は、形が違っていると、

少ないほうが多く見えたり、小さいほうが大きく見えたりするので、

同じ形にしないと、どちらが多いのか、大きいのかわかりませんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(3)数や量の見かけと実質の区別

 

 このように私たちは、ものの数や量、長さや大きさを判断するとき、見かけに惑わされないようにしないといけないことを

知っています。私たちはそのような、ものの数や量や大きさは、目で見た見かけとは違うのだということを知っています。

そのような数や量は、だいたいは見かけと一致するのですが、一致しないこともあることを、私たちは知っています。

このように、ものの数や量や大きさは、目で見えるものではあるのですが、目で見た見かけと同じではないのです。

 このように、ものの本当の数や量や大きさは、見かけ通りではないことを、みなさんは当たり前だと思っていますが、

小さい子どもにはそのことがわかっていないのです。ものの数や量や大きさが見かけ通りではないことがわかるように

なったのは、みなさんが幼稚園や保育園の年長組か、小学校1,2年生になってからなのです。みなさんが、幼稚園や

保育園の年少組や年中組の小さい子どものときは、ものの量や大きさは見かけ通りだと思っていたのです。

 そもそも幼児の小さい子どもは、ものの本当の量と見かけを区別するということをしないのです。ものの量は見かけと

同じものだと思っているのです。小さい子どもは、はじめ同じ量だと思っていたものが、別の入れ物に入れ換えられたり、

形を変えられたりすると、数や量が増えたり減ったりすると思うのです。

 

 幼児の小さい子どもは、きょうだいで飲み物やおやつを分けるとき、形や見かけで多そうなものや大きそうものが、

実際に多いとか大きいと思っているので、そちらのほうを取りたがります。そのことをお兄ちゃんやお姉ちゃんは

知っているので、ものを分けるときに、本当は少なかったり小さかったりするのを、多そうに見えたり大きそうに見えるように、

そのような形にしたり、そのような入れ物に入れたりして、小さい子どもに少ないほうや小さいほうを取らせて、ごまかす

こともあるかもしれません。

 ものの数や量、長さや大きさ、面積や体積は、形や入れ物などで見かけが変わって、多そうに見えたり少なそうに

見えたり、大きそうに見えたり小さそうに見えても、変わらない量だということは、お父さんやお母さんや学校の先生に

教えてもらったのではなく、みなさんがふだん、ものを分けたり入れ物に入れたりして、ものについていろいろなことを

経験していくうちに、自然に自分の力でそう考えるようになったのです。年齢が上がって、自分でそう考えるようになるまでは、

いくらおとなが教えても、そう考えるようにはならないのです。

 みなさんがものの数や量、長さや大きさ、面積や体積を、そのように、形や見かけが変わっても変わらないと考えるように

なることは、数や量の保存と呼ばれています。それは、それだけみなさんがものの量を考える力が発達したということです。

算数や理科の時間に、ものの数や量、長さや大きさ、面積や体積の計り方や、計算する方法を習いますが、それが

理解できるのは、みなさんが自分で自然に、ものの数や量の保存がわかるようになったおかげなのです 。