人々の「伝えたい思い」をデザインで形に現す

■ 仕事のポイント 要望を美的感覚で仕上げる仕事
ここに「しあわせ」をイメージした絵があります。
みんなが幸せになりたいと思っていれば、みんながこの絵に興味を示します。興味を持って見てもらうこと、それがデザインの基本です。では、「しあわせ」をイメージしてください。次に、それを絵で表現してみてください。どうですか、難しいですね。一瞬、考え込んでしまいますよね。
デザインは、形がなく、抽象的なものでも、それをイメージに置き換え、「言いたいこと、伝えたいこと」を表現していきます。商品をつくる意図をくみ取り、それにそって美しく機能的にアピールできるデザインにまとめます。
山中美知世さんに、グラフィックデザインの仕事についてお聞きしました。
 
■ グラフィックデザイナーって、どんな仕事?
グラフィックデザインは、ポスターやパンフレット、広告、パッケージ、ウェブなどのさまざまな情報をわかりやすく伝えるために、文字や写真、図形、色などさまざまな素材を使って美しく構成し、制作する仕事です。グラフィックデザインの他、役割によってインダストリアルデザイナー(工業製品)、エディトリアルデザイナー(書籍)、ウェブデザイナー(ウェブ)と呼ばれます。
デザイナーは、集めた材料を切ったり混ぜたり、味付けしたりと色々な方法で調理してお皿に美しく盛りつける、言わば料理人みたいなものです。ばくぜんとしたお客さんの希望を形にする仕事でもあります。
■ 話を聞いた人

山中美知世(やまなか・みちよ)
1974年、京都府京都市生まれ。
趣味は大型バイクでのツーリング。「仕事にも遊びにもバイクが大活躍です」。
仕事の終わりも納得も、自分で見つけるのです

●グラフィックデザインの仕事につくきっかけは何ですか?
 高校時代にアメリカでホームステイしたときのことです。私が手作りしたカードをほめてくれたアメリカ人デザイナーが、美術を仕事にしてはどうかと勧めてくれたのです。それまでは、ばくぜんと、好きな英語を使った仕事ができればと考えていました。学校の美術の授業も好きでしたが、「デザイナー」なんて夢のような職業であり、食べていけない仕事だろうと思っていました。でも、実際にそれを仕事にしているデザイナーの言葉に、「夢を『現実』にしてもいいのかもしれない」と思うことができ、背中を押された感じでした。

●仕事をしていて、うれしいと感じるときは?
 お客さんに喜んでもらえたとき、これにつきます。お客さんが説明したくても言葉にならない想いを、私が形にして見せたとき、「イメージどうりや、ありがとう!」と感謝されます。イベントのポスターなどで「今までより多くの人が集まったよ!」と結果が出せたとき…。この仕事をやってて本当によかったと思えます。また、仕事の値段を決める「見積もり」で、こちらが希望する金額にお客さんからOKをもらったとき、自分が信頼されたのだという思いもあって、うれしいですね。

●では、つらいと感じるのは、どんなときですか?
 アイデアが浮かばないときです。妥協が許されないのがデザインなので、納得するまでデザインをつきつめます。自分が納得できないとお客さんに完成品を渡すことができません。時間はかかりますが、気分転換をしたり休日を使って何度も作りなおし、自信をもって提出できるレベルまで完成度を高めます。かといって、締め切りを勝手に延ばすわけにはいきませんので、アイデアが浮かばないと時間との戦いになります。デザインという仕事は、自分との戦いでもあるのです。

デザインは多くの人に支えられてする仕事。社交性が身につきました。

●仕事をするなかで、何か気づいたことはありますか?
 自分1人でする仕事だと思っていたデザインが、実はお客さんをはじめ、コピーライターやカメラマンなど多くの人とかかわり、その人たちに支えられてするものだったということです。また、身の回りのすべてのもの、たとえば自然界の色やかたちまでもが仕事の参考になることにも気づきました。この仕事では、いろんな人と仲良くして刺激を受けたり、いろんなものを見たり体験したりすることが、新しいものを生みだすうえでもとても大切なことなのです。

●仕事を始めてから、自分自身に何か変化はありましたか?
 知らない人と話したり、つきあったりするのがキライだったのが、好きになりました。とくに今の会社で、見積もりからお客さんに納品するまでのすべての仕事を担当するようになってからは、いろんな性格や幅広い年齢の人ともつきあえる社交性が身についたと思います。もちろん苦手な人もいますが、自分から進んで話しかけて、だんだん打ち解けていくのが楽しくなってきました。

●仕事を通じて実現したい、将来の夢や希望を教えてください。
 以前は印刷部数や金額が大きい仕事をしたいと思っていましたが、今は小さくても身近な人に喜んでもらえる仕事がしたいと思うようになりました。たとえば、年賀状のデザインなど、世の中には生活に密着した小さなデザインを作ったり、頼んだりできなくて困っている人がたくさんいます。私は、そうした人たちに、自分しかできないようなデザインの仕事で力になれたら、と思っています。

●中学生のみんなに、アドバイスをお願いします。
 友だちをたくさんつくって、社交性を広げることですね。特定の友だちだけとつきあったり、1つのグループに固まったり、それでは協調性はあっても社交性が身につきません。社交性は社会に出たときに必要です。今のうちからどんどんたくさんの人と話すようにしてください。あと、この仕事は、いろんなものを見てまわった方がいいですね。本や美術館はもちろん、イベントに参加する、やったことのないことを体験するなど、すべてが力になります。テレビのコマーシャルを注意して見るのもおすすめですよ。