わかりあえる喜び、お年寄りの笑顔が見たい

■ 仕事のポイント コミュニケーションと他者への共感
日本は世界一の長寿国。
お年寄りが元気で長生きすることはすばらしいことですが、なかには体が衰え、日常生活を送るのが難しくなる人もいます。
そんなときには、行動を手助けしてくれる人が必要です。食事や散歩、お風呂、トイレなど、他人をお世話するのは大変です。
「笑顔になれる人を一人でも増やしたい」という介護福祉士の寺石陽子さん。
寺石さんに、介護福祉士になったきっかけや、仕事の内容について聞いてみました。
 
■ 介護福祉士って、どんな仕事?
身体的、精神的な障害によって、日常生活を送ることが難しい人に対して、専門的な知識と技術をもって行動を支援する仕事です。身の回りのことだけでなく、毎日を楽しく過ごすのに必要なレクリエーション活動なども一緒に行います。これからの高齢化社会で需要が高まる仕事です。介護福祉士になるには国家試験に合格する必要があります。
■ 話を聞いた人

寺石陽子(てらいし・ようこ)
1980年、京都府船井郡生まれ。
夜間勤務もある体力仕事ですが、「家族の理解と協力でこなしています」。
「ありがとう」や「ごめんやで」の言葉に励まされて

●介護福祉士になったきっかけは?
 高校3年生のとき進路について調べるうちに、これからの高齢社会に必要な職業として「介護福祉士」があることを初めて知り、大学は社会福祉学科を選びました。人とかかわることが好きだったのと、両親が共働きだったので、おじいちゃん、おばあちゃん子だったことも影響したと思います。
 大学の2回生の実習で老人ホームへ行ったとき、介護について何にも知らない私が少しお手伝いさせていただいたことに対して、そこのお年寄りの方が笑顔で「ありがとう」と言ってくれたことが、とてもうれしかった。こんな私でも喜んでもらえる仕事ができると思い、この道に進むことを決めました。

●介護は、きれいごとではすまない一面があるのではないでしょうか。
 いろんな人から「他人のうんちやおしっこの世話をよくできるね」と言われますが、「汚い」とか「いや」と思っていたら、この仕事にはついていませんね。排泄(はいせつ)のお世話は、私より相手の方が気を使ってくれます。お世話をしていると、「わるいな」とか「恥ずかしい」という思いが伝わってきて…「そんなこと思わなくってもいいのに、わるくもない、恥ずかしいことでもないよ」と心の中で叫んでいます。だから、相手の方が気を使わなくてもよい対応を心がけています。きれいになった後、笑顔で「ありがとう」や「ごめんやで」の言葉をもらうと本当にうれしいです。
 私のほうが、恥じらいの気持ちや感謝の心を持つことの大切さを教えてもらいました。お年寄りからは教えてもらうことばかりで、この仕事のやりがいは、精神的に深いものを得られるところかもしれません。

たたかれる痛さより、わかってあげられないことのほうが悔しい

●仕事上、つらいことはありますか。
 ときには死に立ち会うことがあります。関わりのあった方の死は悲しくって、もっとしてあげられることはなかったか悔やみます。それから、認知症の方の場合、自分の思い通りにならないときや行動を注意されたりすると、なかには手を出してこられる人もいます。たたかれながら介助するときは、痛さもありますが、相手の思いをわかってあげられないつらさのほうが大きいですね。
 少し経験を積んだおかげで、最近は相手の立場になって考えることができるようになりました。わけがわからない、と思ってしまう人の行動にも、ちゃんとした理由があるんです。たとえば単に「徘徊(はいかい)」と言ってしまうと問題行動になりますが、「家に帰りたいから出口を探して歩きまわっている」と理由がわかれば、その気持ちをくんだ対応ができます。一人ひとり、生きてきた過程が違うので、介護には「これが正しい」というやりかたはないと思っています。

●では、仕事で楽しいことは?
 お年寄りはみなさん、人生の先輩なのでとっても人間味が豊かで個性的です。地元の伝統行事や料理の作り方などいろいろ教えていただけます。経験に裏打ちされた深い言葉をお聞きすることもあって、私はまだまだ未熟と思わされてばかりです。その人の人生や職業が、ふとしたときに介護のヒントになることも多いです。体や精神が自由でなくなっても、その人らしさ、という個性はいつまでも持ち続けるものですね。

人間の生きるパワーは、いくつになっても消えません

●将来はどんな介護士になりたいですか。
 福祉の活動の場を広げていくために、ケアマネージャー、社会福祉士などの資格を取りたいです。もっとリハビリテーションの技術を学び、高齢者の方が少しでも自分で動けるように手助けもしたいです。高齢になると、どんどん体は衰えると思いがちですが、日々のリハビリによって、維持だけでなく歩けるようになった人もいます。それを見ていると、人間の生きる力はいつまでも消えないと感じます。

●中学生のみなさんにアドバイスをお願いします。
 福祉に興味をいだいている人は、ボランティアをするのがよいと思います。
友だちと一緒でもいいので、まず参加してみてください。知らない人たちと協力して誰かのために手助けをすることで、日常では感じることの出来ない感動が得られるかもしれません。また、多くの人とかかわりあうといろんな体験ができて、自分自身の成長にもつながると思います。
 おじいちゃんやおばあちゃんと一緒に住んでいる人は、毎日一声かけてください。離れて暮らしている人は、電話をしたり会いに行ってください。きっと喜ばれますよ。