努力だけでは語れない、自然と生命を愛する仕事

■ 仕事のポイント 自然や作物と対話する創造的な仕事
農業は自然と向き合いながら農作物をつくっていきます。天候や災害などにも左右され、自分の努力だけではうまくいかない場合もあります。
最近では農作物をつくるだけで農業を成り立たせるのは難しい状況にあり、収穫したものを加工して付加価値をつけるなど、工夫も必要です。
 
大阪府出身の松尾敏仁さんは元会社員。
都会の暮らしから離れて、家族とともに見知らぬ土地で農業に転身しました。
農業には、仕事がきつい割には儲(もう)からないイメージもありますが、松尾さんは、「やりかた次第」といいます。
これまでの幅広い経験を活かしながら、あせらず、じっくりと農業を楽しんでいます。
 
■ 農業って、どんな仕事?
耕地に作物の種をまき、栽培し、収穫する、人間が生きていくうえで必要な基本的な産業。人間や動物が必要とする食料を生産します。また、食料のほか、動物の飼育や花の栽培、綿や麻、絹など、繊維の生産も行う農家もあります。
■ 話を聞いた人

松尾敏仁(まつお・としひと)
1967年、大阪府東大阪市生まれ。
この地区の水菜は野菜の“ブランド”です。
家族がいつも一緒に過ごせる楽しさ

●なぜ農業へ転職したのですか。
 子どもが生まれたとき、仕事より子どもと過ごす時間を持ちたいと思ったからです。サラリーマン時代と違い、時間の管理が自分でできることも魅力でした。妻と一緒に市民農園で農業体験をして楽しみ、親しんでいたので、転職するなら農業以外には考えられませんでした。

●会社員と比べて、農業のよいところはどこですか?
 農業は計画どおりに進めば、充分な生活ができる仕事です。昼になると妻や子どもが手作りの弁当を持ってハウスまで来てくれます。子どもも畑の周りを走り回って遊んでいます。サラリーマン時代には味わえなかった風景です。

●苦労された点はないのでしょうか?
 3年目位までは、年に何度も失敗しました。ビニールハウスが雪でつぶれたり、水菜に虫がつき、葉っぱに穴があいて全滅しました。穴があいた野菜や葉先が少しでも茶色くなっていたら、売り物にはならないのです。出荷できないので収入はゼロでした。今は種をまく時期を守り、最低限度の農薬で処理すると、防げることはたくさんあります。つまり計画とは、やることをきちんとやっておくということですね。ただ、農業は自然と向き合っていますので、災害に左右されたり、努力だけではままならないこともこれから起こると思います。

●どんな野菜を作っていますか。
 この地区の特産品である、水菜と九条ネギの2種類をハウス栽培しています。現在は6棟のビニールハウスで生産から梱包、出荷まですべて自分でこなします。店舗に並ぶ野菜は品質が大事なので、気が抜けません。何かわからないときは地元の農家の人に教えてもらいます。農業はまだまだ新人ですが、今のところ上手だとほめられて、喜んでいます。

農作業は、すべてを自分で管理して自分で決めるんです

●農業は、辛い仕事と思う人も多いようですね。
 いろんな種類の農業があるので、楽とは言えませんが、ハウス栽培はキツイ仕事ではありません。冬はビニールハウスの中の作業なのであたたかいし、私は夏の暑さは苦にならないほうなので、気になりません。ただ、一定量を決まった日に出荷するノルマのしんどさはありますね。それに、もともと、土いじりが好きで農業についたから、辛いといは思わないです。会社員と、自分ですべてを管理し実行していく農業の仕事と、どちらが辛いと思うかは、人それぞれでしょうね。

●農業で大切なことは何でしょう。
 農業に大切なことは経験と管理です。いつ種をまいて、どのくらいの期間で芽が出て、水やりのタイミングや肥料はどうするのか、経験から学びながら、決められたことはきちんと管理することです。そのためには細かくデータを取り、失敗を経験に次のステップに活かし、収穫できるようにすることです。それが収入の多少にかかわってきます。

●これからの計画を教えてください。
 ハウスの数を増やすことです。他の野菜の栽培もするつもりですが、人手を増やすことになるので、経営のバランスをどうするか考えています。収入の増額は可能ですが、人を管理するということは、今までよりも自分に厳しくしなければいけないのでその面が大変でしょうね。

●中学生に何かアドバイスをお願いします。
 一度、自分の時間管理をやってみてください。どんな仕事でも時間管理が必要です。自営業にたずさわるなら特に数字に強いことが有利です。計算などは、面倒がらずにやるべきですね。それからもうひとつ、漢字を覚えるのも中学生の間が一番。素晴らしい吸収力のある年齢なので、何でもしっかり覚えてください。