癒(いや)される庭づくり、みんなを元気にする庭を造りたい。

■ 仕事のポイント
自然とのつながり、人とのつながり、日本独自の様式美。
伝統ある日本庭園は、長年、独自の様式美を受け継いできました。
家の小さな庭でも、造園の基礎を持つ庭師の手が入れば、たちまち美しく整えられます。庭師には、もくもくと樹木に向かう職人というイメージがありますが、山下さんによると、庭師は、人とのコミュニケーションやプレゼンテーション、さらには数学も必要な職業とか。
山下さんに、奥の深い庭師の仕事についてお聞きしました。
 
■ 庭師の仕事って、どんな仕事?
庭造りと庭の樹木の手入れなど維持管理をする職人です。
庭木だけでなく、生垣や池、壁、照明など、外まわりの空間すべてを担当します。
自然を熟知した上で、見るものを感動させる美しさや豊かさを備えた空間づくりが求められ、その実現のために高度な技術や芸術的センスが必要とされます。
■ 話を聞いた人

山下良文(やました・よしふみ)
1976年、京都府京都市生まれ。
23歳のときに造園会社を退職し、庭師として独立。趣味は料理。「料理も仕事と同じく、段取りが重要です」。
木に素手で触れて、木の気持ちを考える

●庭師になったきっかけを教えてください。
 通っていた高校が自然豊かな山のふもとにありました。広い敷地内には日本庭園があって、いつも60歳近い庭師のおじさんが出入りしていました。生徒は一緒に掃除を手伝っていましたが、おじさんの冗談が面白くて作業も楽しく、おじさんのような庭師になりたいと思ったことが、この職業を選んだきっかけです。

●どうやって庭師の技術を身につけたのですか?
 高校卒業後、造園会社に入りました。4年の見習期間は親方や先輩を手伝いながら、庭木(ていぼく)の刈(か)り込みや剪定(せんてい)、垣根作りなど庭造りの技術と知識を身につけていきました。日本庭園の場合、300種類の樹木の特性を知っていることがプロの庭師とみなされる条件です。毎日、新しく知った木や花の名前、仕事の段取りなど現場の略図を書いて覚えていきました。

●職人さんは、上下関係が厳しいと聞きますが、本当でしょうか。
 いつも怒られていましたが、技術の確かな先輩の意見は素直に受け止めることができました。少し仕事に慣れてきたころ、剪定しているぼくを見た先輩から「仕事が雑や。手袋なんかして、そんなことで木のことがわかるんか!?」と怒られました。確かに手袋をしない先輩の仕事は丁寧で、仕上がりも美しい。言われたとおり手袋をはずして作業すると、手から木の状態が伝わってきました。そして、この木はどういうふうに刈ってほしいのか、木の気持ちを考えるようになりました。それ以来、木をさわるとき手袋はしません。怒られてよかったと感謝しています。

●では、仕事でつらいのはどんな時ですか?
 つらいのは気候の厳しい夏や冬に、屋外で作業をすることです。忙しい時期は、雨や雪でも作業をしなければなりません。夏は虫に襲われることも多いです。繁った枝には蜂の巣がよく隠れているので刺されることもありますね。あと、高い木に登ったり、大きな石を動かしたり、力仕事もけっこう多いです。

独立してわかった、人とのつながりの大切さ

●なぜ独立したのですか?
 見習い期間が終わると、そのまま残って働くか、独立するかを決めることができます。見習いが終わるころ、この仕事に入るきっかけをくれた庭師のおじさんが引退を決めて、母校の敷地内の管理をぼくに譲ると言ってくださいました。よい機会だったので、思い切って独立することにしました。

●独立すると、何もかも自分でやるのでしょうか。
 そうですね。すべてを自分で考え、段取りしなければいけません。材料の仕入れ、道具の用意、見積書の作成など、現場に着くまでの作業が格段に増えました。独立した後も、以前働いていた造園会社から助っ人として呼んでもらえることも多く、人とのつながりに助けられる部分も大きいです。

 

●見習い時代と独立後の違いはなんでしょうか。
 独立後は、コミュニケーション能力の必要性を痛感しました。見習い当時は、先輩から言われたことだけをやっていました。でも、独立すると、お客さんとも自分が話さなければなりません。もともと話すのが苦手で、お客さんとの打ち合わせは少なめにしていました。でも、自分の考えで仕事を進めてしまって、お客さんの好みと違ってしまい、怒られることもよくありました。原因はしっかり話を聞こうとしなかった自分にあったのです。今は、お客さんと話す機会を増やして、意見を聞くようにしています。

●庭師として、将来の夢を教えてください。
 住んでいる人が元気になる、癒(いや)される庭を造りたい。「山下に任せたら木が元気になったよ」と言われたい。以前は自己主張して、「これがおれの造った庭や!どうや!」みたいな気持ちがありましたが、最近は意識しないようにしています。
 それから、個人で仕事をしている同年代を集めて、いつかグループとして動ける組織を作りたいんです。一人に仕事が重なったとき、グループ内で仕事を分けあったり、協力したりできれば、仕事の幅を広げることができると思っています。

●中学時代にやっておきたいことについて、アドバイスをお願いします。
 今思うと、中学・高校時代に学んだすべてのことが仕事に関係しています。日本史は造園の歴史と密接に関わっているし、科学は照明設置に、数学は設計や見積もり計算に、国語はプレゼンテーションに必要。学校の勉強はすべて将来役に立つと信じてほしいですね。
 それから、人とのつながりはいつか自分を助けてくれます。人のためになることを、できるだけするようにしてください。