落語の世界は入門15年目でも、まだまだ“ひよっこ”

■ 仕事のポイント 住み込み修行で芸をまるごと身につける
テレビやラジオ、舞台で活躍する落語家さんたち。
師弟関係の強い世界で、弟子入り修行という期間を経なければ落語家にはなかなかなれないと言われています。いったいどうやって弟子入りし、どんな修行をして、人を笑わせ、楽しませる話ができるようになるのでしょうか。
師匠の家に住み込んだ内弟子修行時代は、「お金もない、自由時間もない、デートなんて一度もしなかった!」と話す、入門15年目の林家染弥さん。
今や追っかけのファンもついて、人気落語家への道を歩み始めた染弥さんにお話をうかがいました。
 
■ 落語家って、どんな仕事?
落語は、江戸時代から続く日本の話芸。
ほとんど身振りと語りだけで物語を進める、高度な芸を必要とする伝統芸能です。
落語家は着物を着て高座(落語を演じる舞台)に上がり、人情話や、こっけいな話を語り聞かせる芸人さんのことです。
話の最後に“落ち”がつくところから「落語」と呼ばれるようになりました。
■ 話を聞いた人

林家染弥(はやしや・そめや)
本名 池山博一
1975年、三重県四日市市生まれ。
趣味は仕事。「落語に必要な長唄、三味線などのけいこもしてます」。
修学旅行で見た落語に自分の未来を直感

●落語家になったきっかけを教えてください。
 小学校の修学旅行のとき、たまたま京都の劇場で見た林家染丸さんの芸と人柄に感動したからです。一人で何人もの役を演じている落語家さんがおもしろくて、引き込まれて笑っていました。特に理由はなかったけど、大きくなったらこんな人になりたいと、子どもの直感で思いました。その人が僕の師匠です。

●どのようにして弟子入りしたのですか?
 まず、親を説得しないと入門させてもらえません。決意したのが、大学に入ったばかりだったので、親は「入学金がもったいない」「将来性のない芸人なんて、とんでもない」など、大反対。そこで僕は生まれて初めて、親に便せん8枚もの手紙を書きました。内容は、何が何でも落語家になりたい気持ちを面々と綴ったもの。そうしたら父親が、「これだけの思いがあるんやったらやってみい。そのかわり援助もせえへん。泣き言もいうな」としぶしぶ許してくれました。

●次は師匠ですね。
 1週間、毎日師匠の家に通いつめました。ちょっと間をおいてまたお願いに上がり、1カ月ほどたったころに、1週間の住み込み体験入門が許されました。師匠と弟子は親子も同然の間柄になるので、他人の家でどれだけ辛抱できるか、見込みはあるのか、試験ですね。毎日家事手伝いなどをさせてもらって、やっと合格。晴れて弟子になれました。

お客さんの心をどう動かすかにやりがいを感じる

●住み込み修行はどんなことをするのですか?
 掃除、洗濯から料理まで、師匠の言いつけは何でもしなければなりません。けいこはその合間につけてもらいます。落語は「口うつし」と言って師匠から一言ずつ教えてもらいます。身のこなしから、表情、声の調子、すべて聞いて見て覚えます。芸ごとだけでなく、礼儀作法や着物の着付けなど、覚えることは山ほどありました。
 一つの話を覚えて、お客さんに聞いてもらえるまで、最低100回けいこしなければお許しが出ません。できないと怒られるし、どつかれたり、落ち込むこともたくさんありましたが、落語をやりとげたい気持ちがあったので負けませんでした。

●落語家になって良かったと思うことはなんですか。
 この仕事のおかげで、人の気持ちがわかるようになりました。まずは師匠の気持ちを知ることから始め、やがてお客さんにも合わせられるようになったのです。どうしたら人が喜ぶのか、何をしてほしいのかなど、いつも気にするようになりました。人の気持ちがわかり、雰囲気にあわせられるようになると、少しずつ芸もうまくいくようになりました。

●反対に、つらいと思うことはなんでしょう。
 好きなことを仕事にしているのであまり感じませんね。かけ出しのころ、暑いサウナの中で落語をしたことと、40度の高熱をおして高座にあがったときは大変でした。でも、一番つらいのはお客さんが聞いてくれないときです。「そんな話おもろないで」という顔をされたとき。最近、そういう状況のときは、客層や雰囲気を読んで、ちょっと話を変化させるコツをつかみ、お客さんの心をどう動かすかにやりがいを感じています。

僕の値段はお客さんが決めます

●どんな落語家をめざしていますか?
 弟子入りして15年たちますが、落語の世界ではまだ中学生みたいなものです。形がない「芸」でお金をもらうのはむずかしいですよ。僕の値段は人の評判、つまりお客さんが決めるでしょ。だから1回も失敗は許されません。けいこしていつでも舞台に上がれるように準備しています。休日もけいこ、仕事が趣味です。いつか、尊敬する師匠たちのように、むだのない自然な芸ができるようになりたいです。僕が師匠を慕ったように、年をとったとき、僕のことを慕って弟子が来てくれたら、うれしいですね。

●中学生のみんなにアドバイスをお願いします。
 部活はやっておくべきですね。目標に向かって努力した仲間は一生の友になります。あと、いろんなことを経験することも大切。好きなことをするのと、好きなことしかしないのは違います。ちょっと嫌なことでも、好きなことに関係があれば、やった方が結局は好きなことを続けられることにつながりますよ。