餌(たとえばアリ)が巣穴に落ちたとき、いきなり巣穴の底まですべる落ちることはまれです。すり鉢の表面はくずれやすい砂ですから、餌が動けば砂粒が巣穴の底にバラバラと落ちてゆきます。巣穴の底で待っているアリジゴクは、砂粒の落下に対して敏感に反応し、斜面でもがいているアリに向かって砂粒を下から投げつけます。アリの足下はより不安定になり、アリジゴクが大アゴを開いて待っている巣穴底へとずり落ち、やがてアリジゴクに捕らえられます。
アリジゴクは猛毒?をもっている!
巣穴をつくるタイプのアリジゴクも、つくらないタイプのアリジゴクも、どちらも最後は大アゴで餌動物を捕獲することには変わりはありません。大アゴで挟みつけ、砂の中へ引き込むことで餌の動きを止めようとします。アリジゴクの体よりはるかに大きな餌(たとえばガの幼虫)でも、最初は暴れていてもすぐ大人しくなってしまいます。それは「毒液」を注入するからだと考えられています。最近、その「毒液」の毒性や成分などについて、近畿大学の松田一彦先生らによりクロコウスバカゲロウ幼虫を用いて詳しく調べられました。ゴキブリを使って毒性を調べたところ、猛毒のフグ毒(テトロドトキシン)の130倍も強いことがわかりました。ただしこれは昆虫などの節足動物に対する毒性ですから、人にもそれだけ作用する訳ではありません。また、その毒はアリジゴクが自ら生産しているのではなく、アリジゴクの体内にすむバクテリアが作り出したものということです。
大アゴの微細構造
大アゴはアリジゴクにとって大変重要なものです。餌の捕獲のみならず、砂粒をふるいのように選別したり、砂粒を放り投げたりする役割を果たします。大アゴの電子顕微鏡像を示します。
クロコウスバカゲロウの大アゴの電子顕微鏡像
先端部の拡大写真
その先端部分をさらに拡大すると、内側にノコギリの歯のような細かな切れ込みがあることがわかりました。餌の体を大アゴから抜けにくくするため、釣り針の「戻り」のような機能をもっていると考えられます。「戻り」が大きすぎると、抜けにくくなり、体液を吸い終わった餌の死骸を捨てるときに支障をきたす。そのためこのような細かな切れ込みになっているのではと考えられます。