ノリン



ノリンとは

ノリン nolinとは、インドネシア、バリ島(バリ州)、タバナン県ププアン郡プジュンガン村に伝承されている大正琴を起源とする楽器である。村の人々によると、この楽器は、1930年ごろ中国人によってプジュンガン村にもたらされたという。当初は個人が家で楽しむ楽器だったが、1961年には、ガムラン・ノリン gamelan nolinとよばれる編成が誕生した。この編成は、12台のノリンにバリのガムランに用いられるリズム楽器(太鼓やゴングなど)を加えた総勢約20名の大規模なものだった。従来は、青銅製のガムランで用いられる作品をプジュンガンの人々はガムラン・ノリンで代用して演奏した。1965年にいったんその伝承が途絶えたが、1980年代には復興されて現在に至っている。

 



写真資料について

撮影・解説:梅田英春



ノリンの写真資料一覧 (クリックすると拡大します)

沖縄県立芸術大学所蔵のノリン 基本的な構造は大正琴と同じであるが、楽器の共鳴箱や天板には装飾として彫刻が施してある。ギターの弦を用いる。
ノリンの練習風景(1) 演奏するときは、楽器を地面の上において演奏者は胡坐をかくか、胡坐を書いた左の太ももに楽器の片方を乗せ、傾けて演奏する。演奏は左手で音階ボタンを押し、右手にピックをもって、トレモロ奏法を行う。なお伝承はすべて口頭により行われる。
ノリンの練習風景(2) プジュンガン村では、現在、次世代への継承のため、小学生から中学生の子どもたちにノリンの伝承を行っている。
ノリンの演奏(1) 子どもたちを中心としたガムラン・ノリンのメンバー。楽器の色はまちまちなのは、製作時期が異なっているためである。現在では、エレキギターのようにアンプを通して発音するようになった。(2008年12月に撮影)
ノリンの演奏(2) ガムラン・ノリンは舞踊曲の伴奏としても用いられる。真剣な表情で舞踊を見つめる子どもたち。
ノリンの演奏(3) ジョゲッ舞踊の伴奏するガムラン・ノリン。この編成は、娯楽的な目的で演じられるジョゲッ舞踊の伴奏することが多い。
ノリンの演奏(4) トペン舞踊を伴奏するガムラン・ノリン。ガムラン・ノリンは、娯楽的なトペン上演の伴奏はするが、儀礼的な奉納のトペンの伴奏は行わない。
市販されているノリン演奏グループのカセット バリで発売されているガムラン・ノリンのカセットテープ。アネカ・レコードより2本組で発売されている。カセットの表紙の写真のように、かつてはヴァイオリンが旋律楽器として加えられていたが、現在は奏者が亡くなったことから用いられていない。




ゲンジェ上演とその伴奏楽器として大正琴

ゲンジェgenjekは、古くからバリ東部で上演されていたササック語を用いる チャクプンcakepungとよばれる芸能から1990年代前半に新たに誕生したバリ芸能です。
映像は、カランガッスム県の県庁所在地アムラプラ周辺の集落ジャスリの人々により1995年頃に結成されたグループ「ゲンジェ・ストレスGenjek Stress」によるゲンジェの上演です。
このグループは結成当初から、この地域で演奏されていた大正琴を起源とするプンティンとよばれる楽器を伴奏音楽として用いており、1996年にこのグ ループがカセットテープを発売したことも影響して、バリのゲンジェの伴奏音楽としてプンティンが定着しました。  
ただし、この映像で演奏しているのは、鈴木楽器が製作した大正琴です。ジャスリ村の男性が日本人の女性と結婚し、日本に出かけた際、「日本でバリのプンテ ィンを見つけて、バリへの土産として購入した楽器」であり、彼らにとって日本の大正琴は、あくまでもバリの楽器であるプンティンなのです。  
バリ東部の人々は、楽器をギターのように胸に抱えるようにして演奏します。  
上演後、本来使用していたバリ製の大正琴と、映像の上演で使用した日本の大正琴を並べて写真撮影しました。

 

  本来使用していたバリ製の大正琴と、映像の上演で使用した日本の大正琴


映像資料 (クリックすると再生します)

  曲名は《Pengaksama》。最初に上演される曲。鈴木楽器製作所の大正琴を使用している。
  《Mesuitra》 バリの民謡の旋律にもとづいた作品
  《Nyai Nyoman》 バリの民謡の旋律にもとづいた作品
 

《Melajah Tutur》 バリの民謡の旋律にもとづいた作品

  《Pekaad》舞台の最後に上演される曲。


ガムラン・プンティンの練習風景

東部バリのカランガッスム県において、プンティンは1950年代から、バリのガムラン音楽の作品をアンサンブルで演奏するようになります。当時は多くのグルー プがあったといいますが、現在では二つのグループが活動を続けています。
この映像は、ムルドゥ・コマラ Merdu Komalaとよばれる若い人たちを中心に結成されてい るグループで、こうした編成をこの地域では、ガムラン・プンティンと呼びます。 このグループのプンティンは、芸術大学の美術学部を卒業したメンバーの一人がデザインし、自ら製作します。
映像のように、ギターのネックを模ったモダンなデザインの楽器が、このグループの楽器の特徴です。当初、弦の数は7弦でしたが、現在 は9弦 で、ギターの第二弦(6本)と第四弦(3本)が使われています。ペロッグ音 階、スレンドロ音階のどちらの作品も演奏し、葬儀などの際には、葬儀用のガムラン・ アンクルンの代用楽器として演奏されることもあることから、娯楽的な場だけでな く、儀礼においても演奏されています。



映像資料 (クリックすると再生します)

 

女性の踊り手が、観客の男性とともに踊るジョゲッの曲の練習風景。

音階はスレンドロ音階。

  踊りを入れたジョゲの練習風景、曲名は《Wenare Konyer》
  本来はゴング・クビャルにおいて儀礼で演奏される曲を、この編成用に編曲した作品。ペロッグ音階スリシル旋法を使用。曲名は《Geladag》
  4音スレンドロの器楽曲で、このグループのオリジナル曲。曲名は《Merdu Komala》、出だしの部分のみ
  後半部分
  2009年にグループにより創作された作品。楽器の特徴を生かし、ペロッグ音階、スレンドロ音階の両方の旋律が一曲の中で使用される。本来は、フラグメンとよばれる演劇の伴奏音楽として作曲された。曲名は《Sidarta》
  後半部分
  ゴング・クビャルで演奏されるバリで有名な舞踊曲《Oleg Tamulilingan》。このようにクビャル舞踊のほとんどをこの編成用に編曲して演奏してしまう。